AED・救急体制はどう整える？イベント主催者が知るべき医療ガイドライン

イベント開催時に「もしも」の事態が起きたら——。参加者の命を守るため、主催者には適切な医療体制の整備が求められます。本記事では、AED配置から救急体制の構築まで、実践的なガイドラインを詳しく解説します。

なぜイベントに医療体制が必要なのか

イベント特有のリスク要因

イベント会場では、日常生活では起こりにくい医療リスクが存在します：

群衆心理による影響

パニック状態での転倒事故
群衆雪崩の危険性
集団食中毒のリスク

環境要因

高温多湿による熱中症
長時間立位による失神
騒音による聴覚障害

参加者の多様性

高齢者から乳幼児まで幅広い年齢層
既往症を持つ参加者の存在
アレルギー体質者への配慮

主催者の安全配慮義務

民法上の「安全配慮義務」により、イベント主催者は参加者の生命・身体の安全を確保する責任があります。適切な医療体制の不備は、事故発生時に法的責任を問われる可能性があります。

AED配置の基本ガイドライン

AED設置の推奨基準

日本救急医学会の推奨基準

配置間隔: 片道1分以内（約100～150m間隔）で到達可能
設置台数の目安:
- 1,000人未満：最低1台
- 1,000～5,000人：2～3台
- 5,000～10,000人：3～5台
- 10,000人以上：5台以上＋予備機

効果的な配置場所

優先設置エリア

本部・インフォメーション付近
- 認知度が高く、アクセスしやすい
- スタッフが常駐している
ステージ・メインエリア付近
- 人が密集しやすいエリア
- 興奮や熱気による体調不良リスクが高い
飲食エリア
- 誤嚥や食物アレルギーのリスク
- アルコール摂取による事故の可能性
入退場ゲート
- 混雑による転倒事故
- 緊急搬送時のアクセスポイント

AED表示と周知方法

視認性の確保

高さ2m以上の旗やのぼりを設置
LED表示板での位置案内
会場マップへの明記（配布物・アプリ）

スタッフへの周知

全スタッフへのAED位置の共有
使用方法の事前講習会実施
緊急時の連絡体制の確立

規模別・救急体制の構築方法

小規模イベント（参加者500名以下）

基本体制

救護担当者：1～2名
AED：1台
簡易救護スペースの確保

必須対応

□ 最寄り医療機関の確認と連絡先リスト作成
□ 救急車の進入経路確保
□ 基本的な救急用品の準備
□ 緊急連絡網の作成

中規模イベント（参加者500～5,000名）

推奨体制

医療従事者：看護師1名以上
救護ボランティア：3～5名
AED：2～3台
救護室または救護テントの設置

追加対応

□ 事前の医療機関への連絡と協力要請
□ 救護日誌の準備と記録体制
□ 医薬品管理者の指定
□ 搬送用担架の準備

大規模イベント（参加者5,000名以上）

必須体制

医師：1名以上
看護師：3名以上
救急救命士または救護員：5名以上
AED：5台以上
本格的な救護所の設置（エアコン完備）

高度な対応

□ 医療コーディネーターの配置
□ 救急車の会場内待機（要事前調整）
□ モバイル救護チームの編成
□ 無線通信システムの導入
□ トリアージエリアの設定

医療スタッフの確保と配置

スタッフ確保の方法

1. 地域医師会・看護協会への協力要請

2～3ヶ月前に正式依頼
謝礼基準の明確化
責任範囲の事前協議

2. 医療ボランティア団体の活用

日本赤十字社
地域の救護ボランティア団体
医学部・看護学校の協力

3. イベント医療専門会社への委託

包括的な医療体制の提供
機材・薬品の準備も含む
保険対応も一括処理

配置計画の立案

エリア別配置の原則

メイン会場：医師1名＋看護師2名
サブ会場：看護師1名＋救護員2名
巡回チーム：看護師1名＋救護員1名
本部待機：医療コーディネーター1名

緊急時対応プロトコル

初動対応フローチャート

傷病者発見時の基本フロー

現場の安全確認（5秒）
- 二次災害の防止
- 周囲の状況把握
意識・呼吸の確認（10秒）
- 肩を叩いて声かけ
- 胸部の動きを観察
応援要請（即座に）
- 大声で周囲に協力要請
- 本部への無線連絡
心肺蘇生・AED使用（必要時）
- 胸骨圧迫の開始
- AED到着次第使用
救急搬送の判断
- 医療スタッフによる評価
- 119番通報の実施

コミュニケーション体制

3段階の情報伝達

第一報（発生から30秒以内）

「〇〇エリアで傷病者発生、
 男性・推定60代、意識なし、
 AED要請、医療スタッフ急行願います」

状況報告（対応開始から3分以内）

「心肺蘇生実施中、
 AED装着済み、
 救急車要請済み、到着予定10分」

結果報告（搬送後30分以内）

「〇〇病院へ搬送完了、
 意識回復、容態安定、
 家族への連絡済み」

医療機関との連携体制

事前調整事項

連携医療機関の選定基準

イベント会場から15分圏内
救急受入れ体制が整っている
専門診療科の確認（循環器、整形外科等）

事前通知内容

□ イベント概要（日時、規模、内容）
□ 予想される傷病（熱中症、外傷等）
□ 医療体制の概要
□ 緊急連絡先リスト
□ 搬送ルートの確認

当日の連携方法

ホットラインの確立

医療機関の救急外来直通番号
担当医師の携帯電話番号（重要イベント時）
消防署との事前協議による優先対応

必要な医療資材・備品リスト

基本セット（全規模共通）

救急処置用品

□ AED（パッド予備含む）
□ 血圧計・体温計・パルスオキシメーター
□ 包帯・ガーゼ・絆創膏各種
□ 消毒薬（アルコール、ポビドンヨード）
□ 生理食塩水（洗浄用）
□ アイスパック・保冷剤
□ 毛布・保温シート
□ 使い捨て手袋・マスク
□ ストレッチャー・車椅子

中規模以上で追加する物品

医薬品（医師・看護師管理）

□ 解熱鎮痛薬
□ 抗ヒスタミン薬
□ 気管支拡張薬（吸入）
□ エピペン（アナフィラキシー対応）
□ 酸素ボンベ・マスク
□ 点滴セット・輸液
□ 血糖測定器

大規模イベント特有の装備

高度医療機材

□ 心電図モニター
□ 超音波診断装置（ポータブル）
□ 気管挿管セット
□ 縫合セット
□ 薬品保管用冷蔵庫
□ 医療廃棄物処理容器

リスクアセスメントの実施方法

イベント特性の分析

リスク評価マトリックス

イベント要素	リスクレベル	必要な対策
屋外・夏季開催	高（熱中症）	給水所増設、日陰確保、救護所冷房
アルコール提供	中（急性中毒）	販売制限、巡回強化
激しい運動を伴う	高（心臓発作）	AED増設、医師常駐
高齢者多数	中（転倒、持病）	バリアフリー、休憩所
子供向け	中（迷子、怪我）	保護者同伴、クッション材

過去事例からの学習

頻発する医療事案TOP5

熱中症・脱水症状（夏季：40%）
転倒による外傷（15%）
虫刺され・アレルギー（12%）
急性アルコール中毒（10%）
パニック障害・過呼吸（8%）

これらの統計を基に、季節や参加者層に応じた準備を行います。

事故発生時の対応と記録

救護記録の作成

必須記録項目

□ 発生日時・場所
□ 傷病者情報（氏名、年齢、連絡先）
□ 症状・バイタルサイン
□ 実施した処置内容
□ 使用した医薬品・器材
□ 搬送先医療機関
□ 対応スタッフ氏名
□ 家族への連絡状況

インシデントレポート

重大事案の報告基準

救急搬送が発生した場合
AEDを使用した場合
複数名の傷病者が同時発生
メディア報道の可能性がある事案

報告は24時間以内に関係機関（保健所、消防、警察等）へ提出します。

保険加入と法的責任

必要な保険の種類

イベント賠償責任保険

施設起因の事故をカバー
医療行為に関する特約の確認
免責事項の把握

傷害保険

参加者の怪我を補償
スタッフ・ボランティアも対象に
熱中症特約の付加検討

法的リスクの軽減策

事前の免責事項明示

参加規約への明記
既往症申告の推奨
自己責任の範囲明確化

適切な医療体制の証明

ガイドラインに沿った体制構築
専門家の助言記録
改善努力の文書化

まとめ：安全なイベント運営のために

イベントの医療体制は、「起きてから考える」では遅すぎます。以下のチェックリストで最終確認を行いましょう。

開催1ヶ月前チェックリスト

□ リスクアセスメント完了
□ 医療スタッフ確保
□ AED・医療資材手配
□ 医療機関との連携確認
□ 保険加入手続き完了
□ スタッフ研修計画策定

開催1週間前チェックリスト

□ 医療資材の動作確認
□ 緊急連絡網の最終確認
□ 天気予報による追加対策
□ スタッフブリーフィング実施
□ 救護記録用紙の準備
□ 搬送ルートの実地確認

当日朝のチェックリスト

□ AED動作チェック
□ 医療スタッフ出席確認
□ 無線通信テスト
□ 救護所の環境確認
□ 医薬品の温度管理
□ 最新気象情報の共有

参加者全員が笑顔で帰路につけるよう、万全の医療体制でイベントを成功に導きましょう。準備の手間を惜しまず、「転ばぬ先の杖」として医療体制を整備することが、主催者の最重要責務です。

この記事は医療専門家の監修を受けて作成されていますが、実際のイベント開催時は、必ず地域の保健所や消防署、医療機関と事前協議を行い、最新のガイドラインに従って医療体制を構築してください。