毎年、夏のイベントで熱中症による救急搬送が発生しています。イベント主催者として、来場者の安全確保は最重要課題です。本記事では、熱中症事故ゼロを目指すための具体的な対策を、準備段階から事後対応まで詳しく解説します。
イベント企画段階での対策
開催時期・時間の検討
リスクの高い時期を避ける
- 梅雨明け直後(体が暑さに慣れていない)
- 7月下旬〜8月中旬のピーク時
- 気温が急上昇する日
時間帯の工夫
- 早朝開催(6:00〜10:00)
- 夕方開催(16:00以降)
- 最も暑い12:00〜15:00を避ける
- ナイトイベントの検討
会場選定のポイント
理想的な会場条件
- 十分な日陰がある
- 風通しが良い
- 屋内退避場所が確保できる
- 水道設備が充実している
- 救急車のアクセスが良い
避けるべき会場
- アスファルトやコンクリートに囲まれた場所
- 周囲に建物がなく日陰がない場所
- 風通しの悪い窪地
保険と医療体制の準備
必須の準備項目
- イベント保険への加入(熱中症も補償対象か確認)
- 最寄りの医療機関リストの作成
- 救急車の進入ルート確認
- AEDの設置場所確認
会場設営と環境整備
日陰・休憩スペースの設置
テント・パラソルの配置計画
- 収容人数の20%が同時に休憩できるスペース
- 50m以内に必ず日陰を設置
- 車椅子やベビーカーも入れる広さを確保
休憩エリアの設備
- ベンチや椅子の設置
- 送風機やミストファンの配置
- 体温計の常備
- 車椅子対応のスペース
給水設備の充実
給水ポイントの設置基準
- 100mごとに1箇所以上
- 来場者1,000人あたり最低3箇所
- 行列ができにくい配置
設備の種類
- 給水所(紙コップ付き)
- 自動販売機の増設
- 給水車の手配(大規模イベント)
- ウォーターサーバーの設置
冷却設備の導入
効果的な冷却設備
- ミストシャワーの設置(入口、休憩所)
- 大型扇風機の配置
- 冷却用プールや水遊び場(ファミリー向け)
- クールダウンテントの設置
スタッフ体制と役割分担
熱中症対策チームの編成
必要な役割と人数の目安
- 統括責任者:1名
- 救護班:来場者500人に1名
- 巡回班:来場者300人に1名
- 情報班:2〜3名
スタッフ研修の実施
研修内容(必須項目)
-
熱中症の基礎知識
- 症状の見分け方
- 重症度の判断基準
-
応急処置の実技
- 冷却方法の実践
- 水分補給の介助
-
連絡体制の確認
- 緊急時の報告ルート
- 救急要請の手順
-
役割別シミュレーション
- 発見から処置までの流れ
- 救急隊への引き継ぎ
医療スタッフの配置
配置基準
- 看護師:来場者1,000人に1名以上
- 医師:5,000人以上のイベントで1名以上
- 救護所:会場内に最低1箇所(大規模なら複数)
来場者への情報提供
事前告知(HP・SNS・チケット)
必ず伝える情報
- 熱中症リスクの注意喚起
- 推奨する服装・持ち物
- 会場の設備情報(日陰、給水所など)
- 体調不良時の連絡先
告知例文
【熱中症にご注意ください】
当日は高温が予想されます。
・帽子、日傘をご持参ください
・こまめな水分補給を心がけてください
・体調不良時は遠慮なくスタッフまで
会場内に給水所・救護所を設置しています
当日の場内アナウンス
定期アナウンス(30分ごと)
- 現在の気温・暑さ指数
- 水分補給の呼びかけ
- 休憩所・給水所の案内
- 体調確認の促し
緊急時アナウンス文例
「ただいま気温が35度を超えています。
無理をせず、日陰で休憩を取ってください。
気分が悪い方は、お近くのスタッフまで
お声がけください。」
掲示物・サイン計画
設置場所と内容
- 入口:熱中症予防の基本情報
- 給水所:正しい水分補給方法
- 休憩所:症状チェックリスト
- トイレ:体調不良時の対処法
当日の運営管理
気象情報のモニタリング
チェック項目と頻度
- 気温・湿度:30分ごと
- 暑さ指数(WBGT):1時間ごと
- 天気予報の更新:2時間ごと
中止・延期の判断基準
- 暑さ指数31以上が予想される場合
- 最高気温38度以上の予報
- 熱中症警戒アラート発令時
巡回体制の運用
巡回スタッフの任務
- 体調不良者の早期発見
- 混雑箇所での声かけ
- 給水の促し
- 日陰への誘導
重点巡回エリア
- 直射日光の当たる場所
- 混雑しやすいエリア
- 子ども連れが多い場所
- 高齢者の集まる場所
リアルタイム情報共有
情報共有ツール
- 無線機やトランシーバー
- スタッフ用LINE グループ
- 本部掲示板での情報更新
共有すべき情報
- 救護者数と症状
- 混雑状況
- 設備の故障や不具合
- 気象情報の変化
緊急時対応マニュアル
発見から初期対応
対応フロー
-
発見・通報
- 巡回スタッフまたは来場者が発見
- 本部へ即座に連絡
-
現場での初期対応
- 意識確認
- 日陰への移動
- 衣服を緩める
- 水分補給(意識がある場合)
-
医療スタッフへの引き継ぎ
- バイタルサインの伝達
- 発症時刻と経過
- 実施した処置内容
救急搬送の判断と手配
救急要請の判断基準
- 意識がない、もうろうとしている
- 自力で水分補給ができない
- 体温が40度以上
- けいれんを起こしている
救急隊への情報提供
- 患者の年齢・性別
- 症状と発症時刻
- 実施した処置
- 既往歴(分かる範囲で)
記録と報告
記録すべき項目
- 発生時刻と場所
- 患者情報(可能な範囲で)
- 症状と処置内容
- 搬送の有無と搬送先
- 対応スタッフ名
事後対応とフィードバック
関係機関への報告
報告先リスト
- 保健所(重症者が出た場合)
- 施設管理者
- イベント保険会社
- 共催・後援団体
データ分析と改善策
分析項目
- 救護者数と症状の内訳
- 発生時間帯と場所
- 対応にかかった時間
- 設備の利用状況
次回への改善ポイント
- 設備配置の見直し
- スタッフ配置の最適化
- 告知方法の改善
- 中止基準の再検討
主催者用チェックリスト
事前準備(1ヶ月前〜)
- 気象データの分析と開催日時の決定
- 会場の日陰・給水設備の確認
- 医療スタッフの手配
- イベント保険の加入
- スタッフ研修の実施
- 救護所設置場所の決定
- 緊急連絡網の作成
1週間前
- 気象予報の確認
- 設備・備品の最終チェック
- スタッフへの最終ブリーフィング
- 来場者への注意喚起(SNS等)
前日
- 会場設営と動線確認
- 救護所の設営
- 通信機器の動作確認
- 中止判断基準の最終確認
当日
- 朝の気象情報確認
- スタッフミーティング
- 各設備の稼働確認
- 定期的な場内アナウンス
- 巡回記録の作成
事後(1週間以内)
- 救護記録の整理
- 関係機関への報告
- スタッフからのフィードバック収集
- 改善点の文書化
イベント主催者として、来場者の命と健康を守ることは最大の責任です。このマニュアルを参考に、万全の熱中症対策を実施し、すべての来場者が安心して楽しめるイベントを実現してください。
「楽しい思い出」は「安全」の上に成り立ちます。熱中症対策に「やりすぎ」はありません。